こんな雑誌があった その2 ある雑誌の一生 「Peke」と「ComicAgain」(前編) …2016年8月13日

 ある雑誌の創刊から終刊までを確実に調べることは容易ではありません。まず、いつ創刊したか。先に紹介した「牧神」のようにマイナス号からスタートなどという反則技はめったにありませんが、それでも第1号の前に創刊準備号やゼロ号があったりするのは、ままあること。

 そうでなくても、創刊号イコール第1号でないケースが結構あります。それは次のような事情によります。あたらしい雑誌を全国の書店に置いてもらうために、版元は取次会社(本の流通業者)から「雑誌コード」という番号(雑誌の商品番号)をもらう必要があります。そのためには取次に対して、その雑誌の商品価値を販売実績でアピールするのが早道です。

 そのために新雑誌の第1号を既存の(雑誌コードをすでに持っている)雑誌の増刊号として、観測気球的に発売するという裏技?を駆使するわけです。ですから第3号や第4号あたりで唐突に「創刊号」の文字が表紙に出たりするのは、いわば新雑誌が一人前になったよ(雑誌コードをもらった)という宣言なのです。

 このようなケースでは、創刊号より前の号つまり増刊号扱いの分はどちらの雑誌にカウントするべきか、という問題が生じます。形式的には親雑誌に属することになりますが、体裁や内容から上記のような事情がはっきり見てとれる場合には、増刊号といえども別の雑誌とみなすのが適当かと思われます。

 また、このような増刊号があったりすると親雑誌の号数(表紙や裏表紙の隅っこにごくごく小さな字で書いてある「第〇巻第〇号」という表記)があてにならなくなる場合があります。買い漏らしなく揃えたはずなのに号数が抜けている!などというのはそういう事情もあります(もちろん版元の付番ミスもあったりするので油断がなりません)。

 ついでに申しますと、増刊号と似た「別冊」というのが出ることがあります。全国出版協会のWebサイトによれば『「別冊」は本誌の+α的内容のもので、「増刊」は本誌とあまり関連してない内容のもの』という説明がありますが、実際には明確な区別がないらしいです。別冊を増刊号と同じく、本誌の一部とみなすべきかどうかは実に悩ましい問題です。おまけに別冊の名を冠した雑誌(「別冊太陽」「別冊マーガレット」など)まであってややこしいこと限りなし。

 閑話休題、さて終刊を確認するのはもっと大変。最近の雑誌についてはWebなどで調べればわかるのですが、昔の雑誌については現物に当たるしかない場合も多いのです。表紙に「お別れ号」とあったり、どこかに「休刊のお知らせ」が載っていればよいのですが、突然終刊しちゃう場合も多々あるというより、そっちの方が多かったりします。次号予告が載っているけど、その次号は永久に出なかったりするわけです。

 現物にあたるといっても、図書館に収蔵されているのはメジャーな雑誌ばかり。とくにマンガ雑誌やサブカルチャー系などは図書館にはまずないので、個人のコレクションが頼りです。あとは各ジャンルに特化した古書店以外に情報源はないと思います。

 やっとのことで終刊を確認したからといって安心してはいけません。マンガ雑誌などは誌名を変えて新装開店というというのが結構ありますので…。というわけで雑誌探求の道は限りなくけわしいのです。

 と、ここまでが前フリ!。長すぎてバテたので、以下次号(って雑誌じゃないってば)。


(注)

・終刊…たいていの場合「廃刊」なのですが、出版業界ではこういう身もふたもない言い方を避けて「休刊」という言葉を使います。

・「牧神」については、当ブログの過去記事「こんな雑誌があった その1 文學季刊「牧神」 マイナス3号ってまじっすか?」を参照。

・雑誌コード…雑誌の裏表紙の一番下に「雑誌 99999-99」という7桁の数字で記載されています。コミック本も多くは雑誌コードを持つ、いわゆる「雑誌扱い」の商品です。雑誌でも不定期刊のものや、長期間店頭に置きたいものなどは「ISBNコード」を持つ「書籍扱い」になっています。

・取次会社…雑誌コードの事務をおこなっているのは大手取次会社の「トーハン」。

・増刊号…臨時増刊号とも。定期的に発行される通常号以外に、イレギュラーに発行される号。マンガ雑誌などは、いつどんな増刊号が発行されたのか突き止めるだけで一苦労。

・観測気球…極端なケースですが、徳間書店から出ていた月刊「SFアドベンチャー」という小説誌が、唐突にSFとはまったく無関係のアウトドアスポーツの増刊号を出したことがあります。当然のことながら、コレクターからたいてい無視されています。

・第〇巻第〇号…通巻〇〇号と表記する場合もあります(月刊「本の雑誌」など)。

・増刊と別冊…例えば月刊「本の雑誌」(本の雑誌社)では、毎年恒例の「本屋大賞」と「おすすめ文庫王国」を増刊、「古本の雑誌」や「SF本の雑誌」などのワンテーマ特集を別冊としています。

全国出版協会のWebサイト…出版科学研究所のコラム『既存の雑誌が「創刊」とは、これ如何に』(2007年1月11日)より。

・図書館にはまずない…国立国会図書館ならあると思うのが大間違い。法定の納本義務をきちんと守る版元ばかりではありません。マンガ(特に成年マンガ)、アニメ、ゲームなどの分野の納本漏れは、つとに指摘されています。

・ジャンルに特化した古書店…たとえばマンガなら「まんだらけ」など。まんだらけの大部な目録「まんだらけZENBU」(1998年創刊、最新号は本年1月の79号)は非常に資料的価値が高いのですが、とてつもなく目の毒なので黒吉はあえて読んでません。