線路はつづくよどこまでも ~不思議鉄道マンガのこと~ …2016年5月28日

 最近、マンガ本を買うことが少なくなりました。かつては毎月平均7、8冊、年間で100冊くらい買っていた時期もあったのですが、次第に減って、最近では多い月でも3冊くらい。全然買わない月も珍しくありません。

 週刊誌系のマンガ本を買わなくなったこともありますが、購入冊数減の最大の原因はやはり歳のせいだと思います。話題の「進撃の巨人」「テラフォーマーズ」など、面白いと感じるマンガは少なくありません。しかし、身近に置いていつでも読めるようにしたいと思える作品がめっきり減ってきました。

 つまり、面白いというだけでなく、感覚的に黒吉の波長と合うものでなければ買う気が起きません。このあたりが保守的になったというか、柔軟性を失って、若い作者の感性とギャップが生じているのではないかと考えています。

 ですから、マンガ本を買うときも、諸星大二郎高橋葉介ふくやまけいこ等々、昔から活躍されている方々の作品がメインになっています。そんな黒吉ですが、それでも、たまに未知のマンガ家の作品に手をのばすことがあります。

 そんな1冊(全2巻だけど)がkashmirさんの「てるみな」(2013年、2015年、白泉社刊)。表紙に猫耳のロリっ娘が描かれていて、一見萌え系のマンガみたいですが、中身は大違い。基本は鉄道大好き少女が東京?都内や近郊の路線を巡る話。ところが、駅に着いた時点から少しずつ世界が変質して、発車したあとは完全な異界に突入します。

 「千と千尋の神隠し」に出てくる水上列車より、もっと不条理で不吉な世界が展開します。どちらかといえばつげ義春さんの「ねじ式」なんかの世界に近い感触ですが、こちらの方がずっと怖いです。たとえば、うっかり降りると、改札に巨大な歯が並んでいて噛みつぶされてしまう駅とか、坂を上るために(客を乗せたまま)切り離された車両が死屍累々になっている山岳線とか…。

 それでも、主人公の猫耳少女はショックを受けたり、怖がったりという様子もなく、ゆるゆると異様な旅を楽しんでいる風情です。ですから、読後感はホラーマンガのそれではなく、ちょっと不思議テイストな日常系マンガといったところでしょうか。黒吉は小説でも「奇妙な味」が大好きなので、とても気に入りました。

 続編「ぱらのま」が同じ版元の「楽園(ル・パラディ)」という雑誌に連載されているのですが、なんと年3回刊!単行本にまとまるのはいつのことやら…。

 

(追記)「ぱらのま」は先日めでたく第1巻が刊行されました。”ぱらのま”とは paranormal のことだと思っていましたが、不思議系は第1話だけでした。第5話に「てるみな」の女の子がゲスト出演しているので、同じ世界ではあるようです。


(注)

・週刊誌系のマンガ…唯一買い続けているのは椎名高志さんの「絶対可憐チルドレン」。最新刊は第47巻。それにしても、長期連載が前提で、ちょっと人気が出ると、いつまでもだらだらと続けるシステムを根本から考え直さないと、マンガ文化そのものが弱体化するのでは、と危機感を覚えます。終わり時を失って迷走する作品も気の毒だし、読者も不幸せ、何よりマンガ家の才能を浪費しちゃうのが大問題。様々な作品を生み出せる、金のニワトリを殺すようなもんだと黒吉は思いますよ(特に、本来が短編向きのマンガ家はどうすりゃいいんだ?)。

・ほかに買っているのは、あさりよしとお芦奈野ひとし海野蛍後藤羽矢子山本貴嗣(あつじ)など(敬称略)。幸か不幸か寡作な人が多いです。

・kashmirさんは「カシミア」と読むのでしょうか。かつて愛読していた月刊「電撃大王」で「百合星人ナオコさん」を連載されていた方とは、今回調べるまで気がつきませんでした。

猫耳は基本的に好きです。ミクさんにもよく似合うし、最近よく観るMMDのPVでは、東方プロジェクトの八雲藍姐さんが、チャイナ服で色っぽく踊る「Lamb」が素敵。え、あれはキツネだって?失礼しました!

・黒吉は「千と千尋の神隠し」のノスタルジックで不思議な世界が大好きです。とくに夜、海の向こうに光って見える街とか、列車の車窓から見える風景とか…。あの奥行きのある世界は、ピクサーあたりには逆立ちしたって無理でしょう。

・そういえば「ねじ式」にも変なSL列車が出てきますね。