わが心の仮面ライダー …2016年5月19日

 スーパーヒーローについては、これまでアメ・コミのキャラクターばかり取りあげてきましたが、黒吉の最愛のヒーローは、実は仮面ライダーです。しかし、一口に仮面ライダーといっても、1号から現在のゴーストまで、もはや何人いるのかすら見当がつかなくなってしまいました。でも数多のライダーの中で、黒吉の心に残るのはやはり昭和ライダーの面々です。

 思えば、日本万国博覧会の熱気もようやく冷めた昭和46年(1971年)春に、大阪の毎日放送をキー局にして、地味に始まったのが初代ライダーでした。当初は「怪奇アクションドラマ」という触れ込みだったので、どちらかといえば暗いトーンのストーリーに、ホラーな味付けがほどこされていました。

 黒吉は初回からリアルタイムで観ていましたが、第一印象は「チープ」の一言につきます。とにかく低予算まる出し。セットも衣装も目をおおうばかり。役者さんも、失礼ながら演技がうまいとは言い難い。しかしながら、何か心の琴線にひびくものがあって、その後も長く見続けることになりました。

 仮面ライダーの何が魅力かというと、まず「異形」ということでしょう。もともと犯罪組織に「怪奇バッタ男」として改造されたので、それまでのヒーローにない不気味ともいえるマスクになっています。大きな赤い複眼、2本の触角、バッタの顎をデザインした口元。見方によっては鬼のようでもあります。

 この異形は、もはや人間でなくなってしまった、という悲しみをさらに増幅させる役割を果たしています。スカイライダーの第1話に「その姿でどうやって生きていくつもりだ?」と組織への復帰を迫られる場面がありますが、この一言にライダーの悲劇が凝縮されています。

 もうひとつのキーワードは「孤独」です。昭和ライダーは最終的に10人を数えますが、基本たった一人で戦っていました。サポートしてくれる仲間がいる場合でも、戦場には多くの場合、単身赴いたのです。「ロンリー仮面ライダー」という挿入歌は、その哀感を切々と歌っていて、黒吉は大好きです。

 また、ライダーの武器は基本的に、改造された肉体とバイクのみ。きょう日のライダーのように、カードやメダルで便利な武器を装着できるなどということはありません。変身後のライダーや怪人を演じられた大野剣友会の方々の、ときに命がけのアクションは、番組のチープさを補って余りあるものでした。深く感謝する次第です。

 あと大切なのは、原作者の石(ノ)森章太郎さん、プロデューサーの平山亨さんはじめ、制作スタッフの主要メンバーが戦争を体験した世代ということ。初代ライダー冒頭のナレーションに「仮面ライダーは人間の自由のためにショッカーと戦うのだ!」とありますが、人を殺人機械に変えてしまうショッカーとは、かつて国民を戦争に駆り立てたどこかの国のメタファーではないでしょうか。二度とそのようなものに支配されないように、という無言の祈りが番組に込められています。

 これら仮面ライダーの魂(スピリッツ)といえるものが、平成ライダーに引き継がれたかというと、残念ながらノーといわざるを得ません。かろうじて初代平成ライダークウガに残照がある程度でしょうか。もう一度原点に立ちかえったライダーの雄姿が見たいと、黒吉は切に願っています。


(注)

昭和ライダー…ここでいうのは、同じ世界観の中で活躍した10人のライダー。つまり1号、2号、V3、ライダーマン、X、アマゾン、ストロンガー、スカイライダー、スーパー1それにZX(ゼクロス)です。

・ホラーな味付け…残酷描写もありで、第2話で倒されたコウモリ男などは、グシャッとやられて赤い血が飛び散るという、今ではとても考えられないような有様でした。

・低予算…当時の制作状況を描く「仮面ライダーをつくった男たち」(村枝賢一 講談社 2007→増補版2011)というマンガがありますが、それによると、労働争議中のスト破りというとんでもない状況の中、ないないづくしで制作開始という、涙なしには聞けないような話が載っています。

 それでも、ライダーマスクやバイク(初代サイクロン)などは、すぐれた造形で、今でも大好きです。

・異形…原作者の石(ノ)森章太郎さんが髑髏(どくろ)の仮面にこだわったのは有名な話。

・それまでのヒーローにない…しまった!戦前から黄金バットという大先輩がおられました。「輝くどくろは正義の印…」という主題歌で、1966年に実写映画化、翌1967年からTVアニメも。

・スカイライダー…8人目のライダー。番組名はただの「仮面ライダー」(1979~80)。原点回帰という意味で、あえて初代と同じ番組名に。でも、飛行能力を持たせたのは良かったのか悪かったのか?主人公の筑波洋は村上弘明さんが演じました(これがデビュー作)。黒吉のフェイバリット・ライダー。

大野剣友会…殺陣師の大野幸太郎さんが設立した演劇・殺陣集団。高い矜持と師弟の絆に支えられ、子ども番組でも最高の演技を披露しました。「仮面ライダー」という番組の栄光は、この人たちなくしてはあり得ません。上記「仮面ライダーをつくった男たち」にエピソードあり。

・平山亨…仮面ライダー・シリーズをはじめ、赤影、ジャイアントロボキカイダー、バロム1、ゴレンジャーなど数多の番組のプロデューサーを務めた、東映特撮TVシリーズの父というべき存在。2013年に他界。ありがとうございました。

・ショッカー…石(ノ)森章太郎さんの原作マンガには、終盤、敵の巨大コンピューターを破壊するために潜入した2号ライダーが、組織の背後に日本国政府の影を見出して愕然とするシーンがあります。

・「仮面ライダークウガ」(2000~01)…良くも悪くも、その後のライダーへの道筋をつけた里程標番組。改造人間じゃない、敵の目的が不明(組織ですらない)、警察がバックアップ(バイクも官製)、活躍はマスコミで報道、一度も「仮面ライダー」と呼ばれない、など従来の型にとらわれないドラマづくりで話題に。主人公の五代雄介は飄々とした性格で、デビュー間もないオダギリ・ジョーさんが好演しました。仮面ライダー・シリーズとして唯一、SFファンが選ぶ「星雲賞」を受賞(2002年)。