ヴァンパイア小説総ざらえ その3 1980~90年代 …2016年5月17日
お待たせしました。え、だれも待ってないって?ま、そうおっしゃらずにお付き合いください。
さて、1980年代に入るとアン・ライスの後を追って、吸血鬼サイドから描かれた作品が増えてきます。
「薔薇の渇き」ホイットリー・ストリーバー著 The Hunger(1981)
新潮文庫(2003)
「ラスト・ヴァンパイア」The Last Vampire(2001)
新潮文庫(2004)
前者は、原題からお察しのとおり、映画「ハンガー」の原作です。自分が吸血鬼化した愛人の老化を止めるために、自らの血の秘密を科学で探ろうとする女ヴァンパイアの話。後者は20年も経ってから書かれた続編。今度はCIAとの闘いが描かれます。
「奴らは渇いている」(上・下)ロバート・R・マキャモン著 They Thirst(1981)
扶桑社ミステリー(1991)
史上空前の砂嵐を起こし、孤立させたロサンゼルスを蹂躙する吸血鬼軍団。作者の出世作になった、大スケールのアドヴェンチャー・ホラーです。マキャモンは「スティンガー」などもそうですが、描写が具体的というか、まさに映画を観ているよう。ベストセラー作家だったのに、一度も映画化されなかったのはそのせい?
「フィーヴァー・ドリーム」(上・下)ジョージ・R・R・マーティン著 Fever Dream(1982)
創元ノヴェルズ(1990)
南北戦争前夜。一隻の蒸気船でミシシッピを下る吸血鬼と人間。その友情と闘いの物語。異世界ファンタジーの雄編「氷と炎の歌」(ゲーム・オブ・スローンズ)で今をときめく人気作家による名作です。
なお「創元ノヴェルズ」という叢書は新書判でなく、いわば創元推理文庫の文庫内文庫というべきシリーズで、モダン・ホラーを中心に冒険小説などを収録。なぜ別レーベルにする必要があったのか不明ですが、当初は青だった背色も、いつの間にか他の創元推理文庫と同色になり、その内レーベル自体が消滅してしまいました。
「ヴァンパイア・ジャンクション」S・P・ソムトウ著 Vampire Junction(1984)
創元推理文庫(2001)
12歳の天才ロック・シンガーの正体は? ワグナーの楽劇「神々の黄昏」を通奏低音に語られる壮大なダーク・ファンタジー。米・タイ二重国籍のSF作家ソムトウ・スチャリトクルの別名作品。
「ライヴ・ガールズ」レイ・ガートン著 Live Girls(1987)
文春文庫(2001)
タイムズスクエアの一角に建つ、怪しげなフーゾク店で出会った謎の美女。誘いに応じると、〇ん〇んから〇液と一緒に血まで吸われてしまうという、究極のお下品ホラー。スプラッターな描写もすごいので、よい子は読んではいけません。
「ミッドナイト・ブルー」ナンシー・A・コリンズ著 Sunglasses After Dark(1989)
ハヤカワ文庫FT(1997)
「ゴースト・トラップ」 In the Blood(1991)
ハヤカワ文庫FT(1997)
「フォーリング・エンジェル」 Paint It Black(1995)
ハヤカワ文庫FT(1997)
「ブラック・ローズ」 A Dozen Black Roses(1996)
ハヤカワ文庫FT(1998)
美貌の吸血鬼ソーニャ・ブルーは人間になりすました怪物たちを追うハンター。Tシャツにジーンズ、黒い革ジャンにサングラスといういで立ちで、容赦なく標的を屠っていきます。ブラム・ストーカー賞受賞のハードボイルド・アクション・ホラー。エロティシズムもたっぷり。
「ヴァンパイア・バスターズ」ジョン・スティークレー著 Vampire$(1991)
集英社文庫(1994)
原題の末尾の$は誤記ではありません(笑)。法王庁の依頼で吸血鬼退治を行う特殊部隊の話。アクション満載でほとんどアメ・コミ感覚。映画化の話はどこへ行った?
「ブラッド・プライス -血の召喚ー」タニア・ハフ著 Blood Price(1991)
ハヤカワ文庫FT(2005)
連続殺人の犯人は吸血鬼? 謎を追う女探偵の前に現れたのは…。あーロマンスがらみだ!ちっちっち。
「ロスト・ソウルズ」ポピー・Z・ブライト著 Lost Souls(1992)
角川ホラー文庫(1995)
ヴァンパイアの血をひく青年はパンク・バンドにあこがれ放浪の旅へ。血と官能(BL)の先に恐ろしい結末が…。
「ドラキュラ紀元」キム・ニューマン著 Anno Dracula(1992)
創元推理文庫(1995)
ヴァン・ヘルシングが敗れた結果、ドラキュラは女王の配偶者(プリンス・コンソート)に収まり、吸血鬼と人間が同居するもうひとつのヴィクトリア朝が出現。切り裂きジャックの事件を縦糸に、実在、架空を問わず多数の有名人、及び有名無名のヴァンパイア多数が入り乱れる一大絵巻。
続編は2冊あります。
「ドラキュラ戦記」 The Bloody Red Baron(1996)
創元推理文庫(1998)
1918年のフランスが舞台。英国を追われたドラキュラはドイツの首相兼軍最高司令に就任し、英国への報復を開始。原題からおわかりのように、第一次大戦の独空軍の撃墜王リヒトホーフェンをめぐる物語。ただし、こちらの赤男爵は生身で空を飛びます(笑)。エドガー・アラン・ポーが重要な役どころで参戦!
「ドラキュラ崩御」 Judgement of Tears(1998)
創元推理文庫(2002)
ときは1959年、40年ぶりに姿を現したドラキュラとモルダヴィア公女の成婚に沸きかえるローマ。しかし吸血鬼ばかりを狙う謎の刺客も暗躍。ディオゲネス・クラブは結婚の真意を探るため、ヘイミッシュ・ボンド中佐(ヘイミッシュはジェームズのスコットランド訛りだとか)を派遣します。
無類の面白さなので三部作で完結というのはとても残念です。でも、2014年に「Johnny Alucard」なる短篇集が出ているはず。おーい、東京創元社さーん!
「死にいたる愛」デイヴィッド・マーティン著 Tap,Tap(1994)
扶桑社ミステリー(1995)
吸血鬼を自称するサイコ・キラーとの愛憎。繰り返される猟奇殺人の果てに待つ衝撃の結末。上記のレイ・ガートン同様、よい子向けではありません。
「真紅の呪縛」トム・ホランド著 The Vampyre(1995)
ハヤカワ文庫NV(1997)
「ヴァンパイア奇譚」の第1巻。1824年に死んだはずの大詩人バイロンは、実はまだ生きている? 情熱の詩人の恐ろしくもエロティックな遍歴。
「渇きの女王」 Suppig with Panthers(1996)
ハヤカワ文庫NV(1997)
「ヴァンパイア奇譚」の2冊目。ヴィクトリア朝ロンドンに跳梁する吸血鬼を、あのブラム・ストーカーが追います。前作に引き続きバイロンも登場。