吾妻ひでおに花束を …2016年5月7日

 黒吉は古くからのアズマニア。何しろ初期作品「荒野の純喫茶」の掲載誌のスクラップを後生大事にしまってあるくらい。ですから新刊はチェックしていたはずなのに「ワンダー・AZUMA HIDEO・ランド」を見逃してしまい、あわてて注文(予約特典がっ!)。

 いやー懐かしい!初期作や同人誌掲載作ほか単行本未収録の貴重な作品がたくさん。一枚もののイラストなんかも細かく拾ってあって、ひでお愛にあふれた一冊です。

 考えてみれば、このような作品集を編んでもらえるマンガ家は、作者冥利に尽きるのではないでしょうか。この種の断片的な作品を集めた本は、大家にも以外とありません。すぐに思い当たるのは、ふくやまけいこさんくらい。よほど熱烈なファンやコレクター、それに理解のある版元がなければ実現できない企画だと思います。

 吾妻さんの作品は、美少女を核として、シュールでSFな独自の幻想世界を構築しています。吾妻さんが活動を開始した時代には、そのようなマンガを掲載する雑誌はありませんでした。ですから苦労して少しずつ市場を開拓しながら、時にはエロ雑誌の注文にも応じざるを得なかったのです。今日のマンガの多様性は、吾妻さんや(当時は)マイナーなマンガ家の皆さんの努力があってこそ花開いたといえるでしょう。

 さて、黒吉の本棚にある吾妻本の中で、ちょっと珍しいのでは?と思われるものを二、三紹介しましょう。コレクターの方には笑われるかもしれませんが…

 まず「PAPER NIGHT(ペーパーナイト)」(1981、東京三世社刊)。これは季刊の雑誌「少年/少女SFマンガ競作大全集」の増刊号。なんと全ページ、切り抜いて遊ぶタイプのちょっとエッチなパズル本です。絵を吾妻さんが担当しているので、一種の吾妻画集?本の性格上、残っているものが少ないかも知れません。ちなみに黒吉は2冊買って、1冊は切り抜いて遊んじゃいました。

 次は「LET'S GO WITH HASTY」(1973、早稲田外語)。奥付に「シニア版英語会話」とあるように、英会話のテキスト雑誌です。うさぎのヘイスティと人間のガールフレンド(フランキー)の会話で進んでいきます。裏表紙の見返しに同名の英会話教材(カセットテープ付き)の広告が出ていますが、この雑誌はその教材の冊子に記事を追加して、独立させたものと思われます。
 表紙やさし絵もさることながら、合い間にヘイスティやタバコおばけのマンガが載っているのが楽しくて、珍蔵しています。3号で終刊しましたが、教材は6巻あるようなので、後半のさし絵は教材で見るしかない!こちらはまさにレア・アイテムでしょう。

 最後は「吾妻ひでおCD-ROM WORLD」(スタジオ・エフェックス、月刊アスキー編集部編 1995、アスキー)。CD-ROM付きの本としては比較的初期のものです。Windows3.1及びWindows95対応。本の方には短編が3つ。CDの方には「純文学シリーズ」「シベール作品集」ほか壁紙などが収録されています。同人誌「シベール」掲載作が公刊されたのはこれが初。

 なお、黒吉のマイ・フェイバリットは「ミニティー夜夢(やむ)」(1984秋田書店)です。学校を求めて異世界をさまよう女子高生の話。5~6ページのエピソード14話で構成されています。毎回登場するけったいな生物(住民)とのやりとりが絶妙。ちょっと哀感のある幕切れも余韻を残します。この不条理ながらも妙に居心地のよさそうな世界は、他のだれにも真似できません。


(注)

・「荒野の純喫茶」は週刊少年チャンピオン1970年8月3日号及び8月10日号に掲載。後の吾妻マンガの先駆けといえる不条理ギャグマンガ。単行本「みだれモコ」(1977、双葉社パワァコミックス。後に同社の100てんランドコミックスで再刊)所収。ちなみに「みだれモコ」は後の名作「スクラップ学園」の原型作品。

・スクラップは他に「スクラップ学園」(駄ジャレじゃない)全話などを所蔵。ひょっとしてお宝?

・「ワンダー・AZUMA HIDEO・ランド」は復刊ドットコム刊。「2」も出ました。

ふくやまけいこさんは何々で知られるマンガ家…と書こうとして「何々」が思いつかない。キャリアのある大ベテランで、同業者や各種クリエイター、SFマニアなどに熱心なファンが大勢います。にもかかわらず広く知られた代表作とよべるものがない!どこかほんわかとした絵柄と、同様に暖かなストーリー。でも、根底には特濃のおたくマインドが脈々と流れています。

・エロ雑誌…といっても馬鹿にしてはいけません。たいていの場合、版元はホットなシーンさえあれば、あとは何をやってもOKというようなゆるい方針だったので、実験的な作品やユニークなコラムを載せることが可能だったのです。1980年代に大塚英志さんが「まんがブリッコ」というエロマンガ誌を、藤原カムイ等気鋭の新人の活躍の場に改造しちゃったのは有名な話。

・季刊「少年/少女SFマンガ競作大全集」は伝説の「マンガ奇想天外」のライバル誌。当初は再録専門誌でしたが、次第にオリジナル中心にシフト。1978~85年に増刊号を含め32冊を刊行(初期の「少女マンガミステリー競作大全集」を含めれば33冊)。1985年に月刊「WHAT」にリニューアルするも翌年第12号で終刊。

・タバコおばけは吾妻マンガ初期のマスコット的なキャラクター。「HASTY」2号のマンガに「タバコおばけは気のいいおばけ。タバコをのんで、タバコをたべて、しまいにゃタバコで身をおとす」とあります。

・3号で終刊…「4号はまだか?」と版元に送ったハガキが宛先不明で返ってきました。推して知るべし。

・Windows3.1 … 一般に普及した初のWindows(1993年発売)。しかし不安定で、アプリケーションがOSを道連れにダウンすることが頻繁に。その度に泣く泣く十数枚のフロッピーディスクから再インストール。え、フロッピーディスクとは何かって?ああ時代は変わったのね(遠い目)。

 

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