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ヴァンパイア小説総ざらえ その2 1970年代 …2016年5月3日

 19世紀の元祖から、いきなり1970年代でまことに申し訳ありません。でも、この間に書かれた吸血鬼小説にほとんど訳書がないのですよ。ひょっとすると原書も出ていない?

 目ぼしいところでは、ドイツのH・H・エーヴェルス著「吸血鬼」という大作があることはあるけれど、うーん何というか…。吸血鬼伝承の根底にある秘密が明らかになる話なんですが、一般的な意味での怪奇小説ではありません。どう書いてもネタバレしそうなので、歯切れが悪くてごめんなさい。

 ほかに有名どころではリチャード・マシスンの「吸血鬼」(別名「地球最後の男」「アイ・アム・レジェンド」)があります。こちらは、吸血鬼と人間の立場が逆転するというものすごい変化球。名作だけど、ジャンル的にはSFなので、これもパス。

 となると本当にない、全然ない!黒吉が思うに、1950年代までの吸血鬼のイメージといえば、「ノスフェラトゥ」かベラ・ルゴシ主演の「魔人ドラキュラ」、そしてそれ以降はクリストファー・リー主演の「吸血鬼ドラキュラ」。つまり吸血鬼イコールB級ホラーという図式ができていて、作家としても題材に取り上げることが(商売的に)難しかったのではないかと考えたりします。さて、真相や如何に?


呪われた町」(上・下)スティーヴン・キング著 Salem's Lot(1975)
 パシフィカ(1978)、後に集英社文庫
 泣く子も黙るステキンのデビュー2作目。よみがえった吸血鬼により崩壊してゆく田舎町。伝統的な(怖い)吸血鬼物語の集大成的名作です。この一作によって、古めかしいと思われていた伝説の怪物が、リアルな現代社会に華々しい復活を遂げたということで、キングと次のアン・ライスは吸血鬼小説の中興の祖といってよいでしょう。


夜明けのヴァンパイアアン・ライス著 Interview with the Vampire(1976)
 早川書房(1981)、後にハヤカワ文庫NV
 美貌の吸血鬼レスタトの遍歴を描く一大絵巻「ヴァンパイア・クロニクルズ」の第1巻。本作ではレスタトは脇役で、彼の想い人ルイ(男)がインタヴューに答えて、吸血鬼としての半生を語ります。幼体の吸血鬼クロウディアの運命が衝撃的。背徳の美とでもいうべきものを絢爛豪華に描く筆致は比類がありません。映画「インタヴュー・ウイズ・ヴァンパイア」の原作。

 ついでに続巻の紹介もしておきましょう。

第2巻「ヴァンパイア・レスタト」(上・下)The Vampire Lestat(1985)
 扶桑社ミステリー(1994)
 ロック界のスーパースターとなったレスタトは、パリの吸血鬼のリーダー、アルマンと知り合い、一族のルーツを探る旅に出ます。

第3巻「呪われし者の女王」(上・下)The Queen of the Damned(1988)
 扶桑社ミステリー(1995)
 すべての吸血鬼の「母」アカシャが覚醒し、世界をヴァンパイア化しようとします。その前に立ちふさがるレスタトと仲間たち。ヴァンパイア誕生の秘密が明らかに。

第4巻「肉体泥棒の罠」(上・下)The Tale of the Body Thief(1992)
 扶桑社ミステリー(1996)
 レスタトは人間に戻ろうとして、自らを肉体泥棒と称する怪しげな男と取引をしますが…。

第5巻「悪魔メムノック」(上・下)Memnoch the Devil(1995)
 扶桑社ミステリー(1997)
 神と闘う堕天使メムノックとともにレスタトは天国へ。そしてついに神と衝撃の対面!悪魔が語る世界の真相とは?アン・ライス神曲地獄編。

第6巻「美青年アルマンの遍歴」(上・下)The Vampire Armand(1998)
 扶桑社ミステリー(2002)
 パリの吸血鬼界に君臨するアルマンが語る、若き日の破滅と再生の物語。舞台は15世紀のキエフからヴェネツィアへ。

外伝1「パンドラ、真紅の夢」Pandora(1998)
 扶桑社ミステリー(2002)
 作者が「ノヴェラ」と呼ぶ外伝の1作目。アルマンの師マリウスをかつて愛した、美女パンドラの物語。舞台は帝政ローマ

外伝2「呪われた天使、ヴィットーリオ」Vittorio the Vampire(1999)
 扶桑社ミステリー(2003)
 ノヴェラ2作目。ヴァンパイア集団に一族を皆殺しにされた少年は、復讐を誓い、自らも吸血鬼に。ルネサンス期イタリアの物語。

 翻訳があるのは以上。本国ではすでに第13巻まで出ているのですが…。

 それまでの吸血鬼ものでは、ヴァンパイアはいわば不可知の存在で、それが襲ってくるところに恐怖が生じたわけです。それに対してアン・ライスは吸血鬼の側から物語を描くという、新しいタイプのヴァンパイア小説を生み出しました。以後、このタイプが主流になり、現在にいたっています。

 でも、吸血鬼が内面を持つということはもろ刃の剣で、ヴァンパイアはもはや不可知の怪物でなく、単に変わった属性を持つ人間に堕落して、もとい変化してしまいました。ホラーな吸血鬼小説を愛する黒吉にとってはさびしい限りです。


シャーロック・ホームズ対ドラキュラ あるいは血まみれ伯爵の冒険」ジョン・H・ワトスン著 ローレン・D・エスルマン編 Sherloch Holmes vs.Dracula or the Adventure of the Sanguinary(1978)
 河出文庫(1992)
 ロンドンに上陸した吸血鬼の魔手はついにワトスンの妻にまで。ヴァン・ヘルシングの勝利の陰には名探偵の助力が。どちらの原作も尊重した好著。


(注)

・H・H・エーヴェルス著「吸血鬼」Der Vampir(1920)は創土社1976年刊。

リチャード・マシスン著「吸血鬼」I am Legend(1954)は早川書房(ハヤカワ・ファンタジイ)1958年刊。現行版は「アイ・アム・レジェンド」ハヤカワ文庫NV。

・映画「ノスフェラトゥ」Nosferatu は1922年のドイツ映画(サイレント)。表現主義映画の代表作として知られる。1978年に西ドイツでリメイクされた。

・映画「魔人ドラキュラ」Dracula は米ユニヴァーサル作品。1931年公開。

・映画「吸血鬼ドラキュラ」(Horror of) Dracula は英ハマー・フィルム・プロダクション制作。1958年公開。

※「夜明けのヴァンパイア」と萩尾望都さんのマンガ「ポーの一族」の類似性を指摘される方もおられるようですが、前者の原著は1976年刊、後者の第1巻は1974年刊。ということで萩尾さんの勝ちって、そういう問題じゃないよね。ただアン・ライスは1973年頃にはもう書き上げていたので、たまたま、同時期に似たような発想をされたということでしょう。