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ヴァンパイア小説総ざらえ その1 …2016年4月29日

 黒吉はホラーも大好きなので、三大怪奇スターの一角たる吸血鬼についての本が出ると、ついつい買ってしまいます。映画やTVシリーズなどもできるだけチェックしているのですが、昨今は困ったことにロマンスがらみのが大はやり。

 たとえば、初恋の相手は吸血鬼(「トワイライト」)。吸血鬼兄弟と三角関係(「ヴァンパイア・ダイアリーズ」)。人の血を吸わない(人工血液で生きてる!)吸血鬼と恋におちるウェイトレス(「トゥルー・ブラッド」)等々。

 こらぁ、吸血鬼っつうのは元来悪霊なんだよ!どんなに男前だろうがべっぴんだろうが、生ける屍、ゾンビと五十歩百歩なんだよ。大地が受け入れることを拒んだ呪われた死者なんだよー!はぁはぁ…と、じじーがいくら叫んだところでだあれも聞いちゃいない。

 いつ頃からこうなっちゃったのか?起源としては、真っ先にトム・クルーズとブラピが主演した「インタヴュー・ウイズ・ヴァンパイア」が思いうかびますが、ひょっとするとカトリーヌ・ドヌーヴデヴィッド・ボウイ(先日お亡くなりに。合掌)主演の「ハンガー」かも知れません。でも、直接のきっかけはTVシリーズ「バフィ~恋する十字架~」じゃないかと黒吉はにらんでいます。

 いずれにせよ、こんな軟派な吸血鬼がはびこっておっては、元祖ヴラド・ツェペシュ公に申し訳が立たん!というわけで、今宵は本格派?の吸血鬼本をご紹介しましょう。

 とは言うものの、本棚をざっと見ただけでも結構な数の吸血鬼本が。こりゃ自分の首をしめるようなテーマを選んじゃったかも。貧血にならなけりゃよいが…とぼやきつつ、まずは元祖から。

 

「吸血鬼」ジョン・ポリドリ著 The Vampyre(1819)
 バイロンの主治医だった著者が、詩人の未完の物語に想を得て書いたため「バイロンの吸血鬼」と称されたことも。はっきりした吸血の描写こそないけれど、謎めいた魔人がもたらす恐怖感を巧みに描いて、まぎれもなく吸血鬼小説の始祖といえます。
 邦訳にして二十数ページほどの短編で、アンソロジー「怪奇幻想の文学第1巻 真紅の法悦」(1969 新人物往来社)所収。このシリーズ(全7巻)は紀田順一郎さんと荒俣宏さんの編集。創元推理文庫の「怪奇小説傑作集」(全5巻)と並ぶ、怪奇小説愛好家必備の基本図書。

 

「吸血鬼カーミラ」ジョセフ・シェリダン・レ・ファニュ著 Carmilla(1872)
 世界恐怖小説全集第1巻(1958 東京創元社)、後に創元推理文庫
 これも短編で、近代吸血鬼物語のもうひとつの原型になった古典。恐怖小説としても一流だけど、美少女吸血鬼が若い娘を襲うという、百合的な妖しさも魅力。いかにもヴィクトリア朝の作家らしい滋味あふれる語り口で、物語を読む喜びを存分に味わうことができます。
 ところで吸血鬼が別名を使う場合、必ずアナグラム(綴り替え)で名乗るというお約束は、どうもこの本が起源らしい(蛇足)。

(追記)先日、創元推理文庫が実に46年ぶりにレ・ファニュの第二短編集を刊行してくれました。「ドラゴン・ヴォランの部屋」(千葉康樹さんの編・訳による日本オリジナルの傑作選です)。ただ、ただ涙!

 

「吸血鬼ドラキュラ」ブラム・ストーカー著 Dracula(1897)
 創元推理文庫の新版(1971)が本邦初の完訳。「カーミラ」と同じく、平井呈一先生の鏤骨の名訳です。
 いわずと知れた大古典。吸血鬼の基本型を完成したという意味で、この一冊がなければ今日の吸血鬼物語の隆盛はなかったでしょう。本文は手紙と日記で構成されており、いわゆる書簡体小説の名作になっています。120年も昔の作品ですが、プロットといい、見せ場といい、面白い小説とはかくあるべしという、まさに珠玉の逸品。

 

(注)
・三大怪奇スター…ホラー映画のクラシカルな定番モンスターといえば、吸血鬼に狼男そしてフランケンシュタイン(の怪物)。ミイラ怪人と大アマゾンの半魚人を加えれば五大スター。

・トワイライト Twilight …米国の作家ステファニー・メイヤーのヤングアダルト向け小説全4巻(2005~8)邦訳はヴィレッジブックス刊(文庫版、全13冊)。映画化作品は全5作(2008~12)。

・ヴァンパイア・ダイアリーズ The Vampire Diaries …米国のTVシリーズ。7シーズン155話(2009~16)。

・トゥルー・ブラッド True Blood …米国のTVシリーズ。7シーズン80話(2008~14)。ちなみに「トゥルー・ブラッド」というのは作中の人工血液の商品名。日本人の開発だそうです。

・インタヴュー・ウイズ・ヴァンパイア Interview with the Vampire(1994)は米国ワーナー映画。原作については後ほど。

・ハンガー The Hunger(1983)は米国MGM映画。原作本については、こちらも後ほど。

・バフィ~恋する十字架~ Buffy the Vampire Slayer …米国のTVシリーズ。映画「バッフィ・ザ・バンパイアキラーBuffy the Vampire Slayer(1992)の続編として制作。7シーズン144話(1997~2003)。主演のサラ・ミシェル・ゲラーはこの作品で一躍人気女優に。

ヴラド・ツェペシュ公は「ドラキュラ」の名で知られる、15世紀ワラキア公国(現ルーマニア)の封建領主。オスマン・トルコ軍を撃退した救国の英雄です。戦国武将にありがちな勇猛果敢、残忍無比という性格ゆえに、敵からは悪魔と呼ばれました。吸血鬼にしちゃったのは、19世紀アイルランドの作家ブラム・ストーカー。あの世で公に出会って、ひどい目にあってなければよいのですが…。