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こんな雑誌があった その1 文學季刊「牧神」 マイナス3号ってまじっすか? …2016年4月20日

 新しい雑誌を出すときは創刊号(第1号)から始めるのが普通。ところが何を思ってかゼロ号とか創刊準備号とかで始める、へそ曲がりな版元がたまにあります(最近だと「特撮ゼロ」)。メジャーな雑誌なら見本としての創刊準備号をつくって、発売前に取次や書店に配布し、意見を集めることがあります(当然、非売品で正式な号数には含まれません)。

 ま、ここまでならよくある話で、取りたてて珍しいことではありません。でも、マイナス号となれば話は別です。それもマイナス3号!

 そんな酔狂な創刊をしたのは「牧神」という1970年代の文芸誌。海外文学愛好家向けの内容で、いわゆるハイブローな読者を想定していたようです。当初は幻想文学寄りの特集が多かったので、貧乏学生の黒吉も無理して購読していました。

 ところが何たること、9号で当時大いにもてはやされたエリカ・ジョングなんぞを特集したじゃありませんか。日和(ひよ)ったなぁ!と怒った黒吉は次の10号で訣別したのでありました。同誌はせっかくの方針転換も甲斐がなかったとみえて、結局12号で終刊してしまいました。

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 問題のマイナス3号の現物はこんな具合。となりの「SFマガジン」(A5判)と比べると小さい、しかも薄い(64ページ)。初めて見たときは出版社のPR誌と勘違いして「えっ、有料っすか?」と恥をかいちまいましたぜ。でも珍しくアーサー・マッケンの特集だし…と迷った末に購入。マイナス2号(ロルカ特集)も勢いで買ってしまい、次号を待っていましたが、予定時期になっても見当たらない。

 1号を待たずに休刊か?とレジ横を見るとありました!なんとマイナス1号は無料の図書目録だったのです。それまでの号は小さいながらもちゃんと厚手の表紙がついていましたが、これは普通紙を綴じただけのペラペラ。見逃してマイナス1号は存在しないと思った人もいるのではないでしょうか。
 次はひょっとしてゼロ号か、と期待しましたが創刊号でした、ちょっと残念。

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 さて、肝心の内容ですが、参考に創刊号の目次を載せておきます。執筆陣の豪華さはため息もので、同じテーマで作っても、これを超えるものは難しいと思われます。以下、4号までは幻想文学路線でした。

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 5号から背表紙の色がそれまでの赤から紫に変わるとともに、内容が神秘主義方面にシフト。さらに背が緑になった問題の9号からは、全然別の方向に…。全号のデータを記しておきます。

-3号(1973.7) 特集1:アリス&キャロル 特集2:A・マッケン=妖魔の世界
-2号(1974.6) 特集:フェデリコ・ガルシーア・ロルカ
-1号(不明) 図書目録74年夏
創刊号(1975.1) 特集:ゴシック・ロマンス 暗黒小説の系譜
 2号(1975.5) 特集:不思議な童話の世界
 3号(1975.8) 特集:幽霊奇譚
 4号(1975.10) 特集:海洋冒険小説
 5号(1976.1) 特集:ウィリアム・ブレイク 予言と神秘の書
 6号(1976.7) 特集:ウィリアム・ブレイク 無垢(イノセンス)の歌
 7号(1976.11) 特集:神秘主義について
 8号(1977.1) 特集:ノヴァーリス 夜の想像力
 9号(1977.6) 特集:崩壊する女らしさの神話 アメリカ女性作家を通して
10号(1977.9) 特集:SFファンタジーの世界 ル・グィンの神話と幻想
11号(1977.?) 特集:都市の肖像 (副題不明)
12号(1978.?) 特集:人間の棲家 建物の生理学
※3号と11号に「臨時増刊」の表記あり。11号と12号は現物が手元にないのですみません。

 もはや忘れられた雑誌かと思いますが、ウィリアム・ブレイクの2号連続特集など、幻想文学ファンならずとも珍重するべき、珠玉のような文芸誌です。


(注)
・季刊「牧神」は牧神社出版発行。牧神社出版は、やはり高踏的な文芸誌「思潮」(思潮社)を編集していた菅原孝雄(貴緒)さんが興した出版社。「アーサー・マッケン作品集成」(全6巻)「シャルル・ノディエ選集」(全5巻)「日影丈吉未刊短篇集成」(全4巻)など幻想文学方面の出版で足跡を残すも短命に終わりました。

・「特撮ゼロ」はアオ・パブリッシングが出している季刊の情報・評論誌。珍しく地方出版(兵庫県尼崎市)の雑誌です。ヴィジュアルに頼らない文字中心の特撮誌としては、他に不定期の「特撮秘宝」(洋泉社)がありますが、ともどもにがんばっていただきたいと黒吉は応援していますよ。

・「小さい、薄い」…創刊号以降はA5判平綴じ、つまり「SFマガジン」なんかと同じ体裁になりました。

・出版社のPR誌は岩波書店の「図書」が老舗。たいてい書店が無料で配布しているけど、内容は下手な一般誌より充実。わが家では置かれている場所にちなんで「トイレ本」と呼ばれています。作っている人たちごめんよー!

エリカ・ジョング(1942-)は米国の作家。夫を捨てて放浪する女性を描いた小説「飛ぶのが怖い」 Fear of Flying (1973) がわが国でもベストセラーに。フェミニズム小説のように言われるけど少し違うような…。現行の邦訳は河出文庫

・アーサー・マッケン(1863-1947)は英国の作家。M・R・ジェイムズ、H・P・ラヴクラフト、アルジャノン・ブラックウッドとともに近代怪奇小説の四天王と呼ばれます。なお「アーサー・マッケン作品集成」は2014~15年に沖積舎から再刊されました。