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驚異の旅ふたたび ~ジュール・ヴェルヌ礼讃~ …2016年4月16日

 映画やアメ・コミの話が続いたので、ここらで本筋?のSF本の話をしましょう。まずは元祖に敬意を表することに。

 SFの元祖といっても諸説あります。聖書や神話伝説の類にまでさかのぼっちゃうのはトンデモ説ですが、「竹取物語」やシラノ・ド・ベルジュラックなどを持ち出す人は結構おられます。他によく見るのはメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」を嚆矢とする説ですが、これもいかがなものでしょうか。

 黒吉としては、科学小説と称する以上、やはり科学技術が開く未来を夢想したジュール・ヴェルヌ、そして個人や社会でなく、初めて種としての人類について描いたハーバート・ジョージ・ウェルズが始祖ではないかと考えています。

 そのジュール・ヴェルヌはわが国でも「二年間の休暇(十五少年漂流記)」や「八十日間世界一周」が明治初期から親しまれており、その他に「海底二万里」と「地底旅行」がフランス文学の定番になっています。

 該博な知識と科学的想像力がつむぎ出す雄大な物語は、緻密な描写や魅力的な人物造形と相まって、極上の読書体験を与えてくれます。黒吉は正直フランスという国があまり好きではありませんが、アレクサンドル・デュマ(大デュマ)とジュール・ヴェルヌを生み出したことで、大いに感謝しているのです。

 そんなヴェルヌの新たな作品集が来月から刊行されることになりました。(追記:遅れに遅れてやっと本年1月から刊行)「ジュール・ヴェルヌ<驚異の旅>コレクション」全5巻で版元はインスクリプト。内容は下記のとおり。

第I巻(第4回配本)ハテラス船長の航海と冒険 荒原邦博・荒原由紀子訳(18年春刊) 予価:5,500円 [新訳]
第II巻(第1回配本)地球から月へ 月を回って 上も下もなく 石橋正孝訳(17年1月刊) 特大巻:5,800円 [完訳 世界初の合本]
第III巻(第5回配本)エクトール・セルヴァダック 石橋正孝訳(18年秋刊) 予価:5,000円 [本邦初の完訳]
第IV巻(第2回配本)蒸気で動く家 荒原邦博・三枝大修訳(17年5月刊) 予価:5,500円 [本邦初の完訳]
第V巻(第3回配本)カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密 新島進訳(17年11月刊) 予価4200円 [新訳、本邦初訳]

 黒吉がとくに期待しているのは第V巻の「ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密」。1970年代にたまたまTVで放送された映画版を観て、透明人間はライバル?のH・G・ウェルズの専売かと思いきやヴェルヌも書いてたのか!と仰天。この作家には珍しくロマンス色も濃いので、原作は如何にと興味深々。

 なお「驚異の旅( Les Voyages Extraordinaires )」とはヴェルヌの冒険小説の全体を指す言葉で、「新集世界の文学第20巻ジュール・ヴェルヌ」(1972年 中央公論社)の巻末に付された目録を見ると65作品がリストアップされています。

 参考までにわが国で刊行された他の作品集を紹介しておきます(子ども向けを除く)。

(1)ヴェルヌ全集 全24巻 集英社 1967~69年

第1巻 八十日間世界一周
第2巻 海底二万里
第3巻 征服者ロビュール
※ 空のネモ船長とでも言うべきロビュールが、元祖大型ヘリで大空を征服。
第4巻 皇帝の密使(原題「ミハイル・ストロゴフ」)
※ ロシア皇帝の密命を受けてシベリア横断6000キロ。
第5巻 二年間のバカンス
第6巻 カルパチアの城
※ トランシルヴァニアの古城にまつわる怪異とロマンス(でもホラーじゃない)。
第7巻 気球に乗って五週間
※ ナイルの源流を気球で探検。「驚異の旅」第1作(1863年)
第8巻 地底の冒険
第9巻 月世界旅行(原題「地球から月へ」)
※ 有人の砲弾を月へ飛ばす超巨大砲の建造から発射まで。
第10巻 悪魔の発明(原題「国旗に向かって」)
※ バミューダの孤島に立てこもる海賊王が手に入れたのは、超強力な破壊兵器。
第11巻 シナ人の苦悶
※ 清朝の中国。全財産を失い死を決意した青年が、運命の皮肉から大冒険へ。
第12巻 インド王妃の遺産(原題「ベガンの五億フラン」)
※ 莫大な遺産を相続した二人の科学者。一人は科学都市を、もう一人は究極の破壊兵器を。
第13巻 アドリア海の復讐I(原題「マチアス・サンドルフ」)
第14巻 アドリア海の復讐II
※ ハンガリー独立のために立ち上がった若き伯爵は、奸計にはまり死の獄に。もうひとりの巌窟王
第15巻 月世界探検(原題「月をまわって」)
※ 砲弾の発射から地球帰還まで。
第16巻 動く海上都市(原題「スクリュー島」)
※ 元祖メガ・フロートが世界をめぐる。襲い来るは海賊、そして自然の猛威。
第17巻 グラント船長の子供たちI
第18巻 グラント船長の子供たちII
※ 行方不明の大探検家を探すために、その子どもたちと若き英国貴族が冒険の旅に。
第19巻 黒いダイヤモンド(原題「黒い宝庫」)
※ スコットランドの廃坑で見つけたのは大炭層と絶世の美女。しかしその奥には恐ろしい秘密が。
第20巻 ジャンガダ
※ 汚名をすすぎ、愛娘を守るため、父は大筏(ジャンガダ)でアマゾン川4000キロを下る。
第21巻 神秘の島I
第22巻 神秘の島II
※ 南軍に捕らわれた4人の北軍兵士は気球で脱出し、太平洋の孤島へ。そこで起こる不思議な出来事の数々。「海底二万里」と「グラント船長の子供たち」の完結編。
第23巻 砂漠の秘密都市(原題「バルザック調査団の冒険」)
※ 仏領ギアナの政府調査団が拉致されて、科学の粋を集めた要塞都市へ。「驚異の旅」の掉尾(1919年)

第24巻 ドクター・オクス 短篇集
※ 精神を狂わせるガスの騒動を描く表題作のほか「ザカリウス師」「ラトン一家の冒険」「永遠のアダム」を収録。

 収録作の多くが本邦初訳。これだけまとまった作品集は後にも先にも出ていません。新書判で出たのも貧乏学生には有り難く、いまだに集英社には感謝しています。


(2)海と空の大ロマン 全9巻 パシフィカ 1979年

第1巻 気球旅行の五週間
第2巻 洋上都市
※ 巨大汽船の航海を描く表題作のほか短編「空中の悲劇」「マルティン・パス」「老時計師ザカリウス」を収録。
第3巻 ハテラス船長の冒険 上
第4巻 ハテラス船長の冒険 下
※ 船長不在のまま謎の航海を続ける帆船はついに北極へ。
第5巻 氷のスフィンクス 上
第6巻 氷のスフィンクス 下
※ アーサー・ゴードン・ピムの足跡をたどる探検家が出会った南極の怪異の真相は…。
第7巻 北海の越冬/緑の光線
※ 「緑の光線」はヴェルヌには珍しい静かな恋物語
第8巻 皇帝の密使ミハイル・ストロゴフ
第9巻 永遠のアダム/エーゲ海燃ゆ
※ 前者は文明の終焉を描く短編。後者はギリシャ独立戦争を背景に描かれる愛憎の人間模様。

 B6判ソフトカバー。巻数の表記はないので、黒吉が月報の番号から判断しました。


(3)ジュール・ヴェルヌ・コレクション 集英社文庫 1993~94年

1 海底二万里
2 チャンセラー号の筏
※ 大西洋航路の帆船が火災で沈没。乗員と乗客の壮絶なサバイバルが始まる。
3 アドリア海の復讐 上
4 アドリア海の復讐 下
5 征服者ロビュール
6 二年間のバカンス
7 カルパチアの城
8 気球に乗って五週間
9 インド王妃の遺産
10 氷のスフィンクス
11 世界の支配者
※ 陸海空を高速で移動する謎のスーパーヴィークル。その目的は?「征服者ロビュール」続編。
12 ミステリアス・アイランド 上
13 ミステリアス・アイランド 下
※ 1996年に追加刊行。

 新書判ヴェルヌ全集からのセレクションに本邦初訳の2冊(2と11)及び10を新たに収録。
 後年に一部(「海底二万里」等)が改訂新版になった模様。電子書籍版もあり。

 

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          新書判「ヴェルヌ全集」   「海と空の大ロマン」