スーパーマンが飛ぶ! …2016年4月6日

 「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」絶賛公開中!ということで、今回のテーマはスーパーマン。彼はもちろん架空の存在だけれど、アメリカを代表するいわゆる文化アイコンの一つ。今や普通名詞なので、わが国でも知らない人はいない(はず)。でも、世代によってそのイメージはかなり差があるのではないかと思います。

 大ざっぱに分けて、(1)昭和30年代に実写版のTVシリーズを観ていた世代。(2)1970~80年代の映画(クリストファー・リーヴ主演)を観た世代。(3)今世紀のTVシリーズ「ヤング・スーパーマン」や映画「マン・オブ・スティール」などを観た世代。といったところでしょうか。

 昔のTVシリーズのジョージ・リーブスはちょっと野暮ったいけど、フレンドリーなキャラ。クリストファー・リーヴは甘いマスクでロマンティックな場面にもよく似合いました。「ヤング」のトム・ウェリングは言っちゃ悪いがどこにでもいるような悩める兄ちゃん(それが狙いでしょう)。新世代映画のヘンリー・カヴィルはパワフルだけど、陰(かげ)があって少し怖いような感じのヒーローになっています(今回の映画にはうってつけ!)。

 黒吉はもちろん最初の世代なので、出会いは昔の実写版シリーズ。ちょうどTVが普及し始めた時期でした。当時はすごい人気で、吹き替えを演じた若き日の大平透さんまでスター扱い。ひょっとして声優のアイドル化はこれが起源?

 今見ると、ジョージ・リーブスは筋肉質というよりドテっとした感じだし、飛行シーン以外ほとんど特撮なしの、絵に描いたような低予算だしと、なかなかつらいものが…。でも「空を見ろ!」の有名なナレーションで始まるオープニングは、今も脳裏に鮮やかによみがえります。

 TVシリーズの人気を反映して、原作マンガ(いわゆるアメ・コミ)の翻訳も始まりました。当時、少年雑誌で勢いのあった少年画報社が版権を取得して、雑誌形式で昭和34年から36年にかけて14冊を刊行。親に買ってもらえなかった黒吉少年は親切な友だちに借りてむさぼり読んだのでした。

 その割におぼえていないのは情けないけど、バットマンやロビンに出会ったのはこの時です。シリコン(だったと思う)の盾で殺人光線を防ぎながら、クリプトナイト攻撃に苦しむスーパーマンを援護して戦っていたのを記憶しています(バットマンがわが国のメディアに登場したのはこれが最初?)。

 次の出会いは、昭和38年に放送された短編アニメシリーズの「スーパーマン」。「天空の城ラピュタ」のロボット兵の原型になった飛行ロボットが出てくるので(一部で)有名です。実写版よりスケールがでかいし、何よりスーパー能力が存分に描かれています。

 作られたのは戦前なので古いといえば古くさいのですが、切断されたケーブルの代わりに自分の体で高圧電流を通すとか、ヒロインに落ちかかる溶けた鉄の滝をケープで受け流すとか、おお、かっこいい!というシーンが満載です。短いけど勇壮なテーマ音楽もナイス。

 と、こんなふうにできた黒吉のスーパーマン像は、よく言えばオーソドックス、でも古くささはまぬがれないところ。

 きょう日の映画のスーパーマンは、アメ・コミ由来のケバい配色をやめてダークな色の衣装になっているし、何より赤パンツをはいてない!「ヤング・スーパーマン」にいたっては、ケープどころか普段着で飛びまわっています。

 それは単なる外観の変化だけでなく、内面も変わってきたことを表しています。もはや往年の「アメリカの正義」を信じて能天気に活躍していたヒーローの姿はありません。ひとつひとつ何かを失っていくスーパーマンがアメリカという国に重なって見えるのは黒吉だけ?


(注)
・最初のTVシリーズは「Adventures of Superman」。本国では1952年から58年にかけて、30分もの6シーズン104本を放映。初期の2シーズンのみモノクロ。黒吉は後年CSで見て「色つきだったのか!」と仰天。
・「空を見ろ!」のフルバージョンは

 弾丸(たま)よりも速く!力は機関車よりも強く!高いビルディングもひとっ跳び!
 (群衆の声)空を見ろ!鳥だ!ジェット機だわ!あっスーパーマン
 そうです。遠い星から来た奇跡の男。人間をはるかにしのぐ力を持ち、川の流れを変え、鋼鉄をひねるくらいは朝飯前。
 彼はクラーク・ケントと名乗って、メトロポリスの新聞社デイリー・プラネットの記者として正体を隠し、正義と真実を守るため日夜戦いつづけているのです。

 原文は
 Faster than a speeding bullet! More powerful than a locomotive! Able to leap
tall buildings in a single bound!
Look! Up in the sky! It's a bird! It's a plane! It's Superman!
Yes, it's Superman. Strange visitor from another planet who came to Earth
with powers and abilities far beyond those of mortal men.
 Superman, who can change the course of mighty rivers, bend steel in his bare
hands, and who - disguised as Clark Kent, mild-mannered reporter for a great
Metropolitan newspaper - fights a never-ending battle for Truth, Justice and
the American way!

 日本語版では「正義と真実」の次の「the American way」が抜けていますね。そうです彼はウルトラマンのように人類のためでなく、アメリカ市民としてお国のために戦っていたのでした。

 よけいなトリビアを申しますと「高いビルディングもひとっ跳び」とは超人的なジャンプ力をいいます。雑誌連載初期(1930~40年代)の設定では、飛行能力はなく大ジャンプで移動していたのです。ですから前述の短編アニメシリーズにも、飛行(跳躍)中に障害物に阻まれて落下するシーンがあります。
 最初のTVシリーズは戦前のラジオ・ドラマ版のオープニング・ナレーションをそのまま使ったので、飛行能力があるのに、このような表現になっています。

※日本語訳は黒吉の記憶で書いてあります。違っていたらご教示いただければ幸いです。

少年画報社の雑誌版は単なる翻訳でなく、絵もわが国のマンガ家がそれらしく書き直していたと知って大びっくり。そのままの絵で載せると、米国仕様で本が左開きになってしまい、右開きに慣れたわが国の子どもたちになじまないと思ったのでしょう。教えてくださったのは「ツルゴアXXX」というブログ。ありがとうございました。

・短編アニメ・シリーズの作者は「ポパイ」で有名なマックス・フライシャー。1941年から43年にかけて17本が公開されました(わが国では、前述のとおり戦後TVで初お目見え)。とにかく丁寧なつくりで、レトロな雰囲気もかえって新鮮。何しろ太平洋戦争当時の制作なので、日本軍と戦うエピソードもあったりして、色々な意味で一見の価値あり。(追記)最近になってもう8本が確認されているようです。

・「ラピュタ」のロボット兵もそうだけど、「ルパン三世」第2シリーズの最終エピソード「さらば愛しきルパンよ」(1980)のロボットの方が原型に近いかも。