驚異の旅ふたたび ~ジュール・ヴェルヌ礼讃~ …2016年4月16日

 映画やアメ・コミの話が続いたので、ここらで本筋?のSF本の話をしましょう。まずは元祖に敬意を表することに。

 SFの元祖といっても諸説あります。聖書や神話伝説の類にまでさかのぼっちゃうのはトンデモ説ですが、「竹取物語」やシラノ・ド・ベルジュラックなどを持ち出す人は結構おられます。他によく見るのはメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」を嚆矢とする説ですが、これもいかがなものでしょうか。

 黒吉としては、科学小説と称する以上、やはり科学技術が開く未来を夢想したジュール・ヴェルヌ、そして個人や社会でなく、初めて種としての人類について描いたハーバート・ジョージ・ウェルズが始祖ではないかと考えています。

 そのジュール・ヴェルヌはわが国でも「二年間の休暇(十五少年漂流記)」や「八十日間世界一周」が明治初期から親しまれており、その他に「海底二万里」と「地底旅行」がフランス文学の定番になっています。

 該博な知識と科学的想像力がつむぎ出す雄大な物語は、緻密な描写や魅力的な人物造形と相まって、極上の読書体験を与えてくれます。黒吉は正直フランスという国があまり好きではありませんが、アレクサンドル・デュマ(大デュマ)とジュール・ヴェルヌを生み出したことで、大いに感謝しているのです。

 そんなヴェルヌの新たな作品集が来月から刊行されることになりました。(追記:遅れに遅れてやっと本年1月から刊行)「ジュール・ヴェルヌ<驚異の旅>コレクション」全5巻で版元はインスクリプト。内容は下記のとおり。

第I巻(第4回配本)ハテラス船長の航海と冒険 荒原邦博・荒原由紀子訳(18年春刊) 予価:5,500円 [新訳]
第II巻(第1回配本)地球から月へ 月を回って 上も下もなく 石橋正孝訳(17年1月刊) 特大巻:5,800円 [完訳 世界初の合本]
第III巻(第5回配本)エクトール・セルヴァダック 石橋正孝訳(18年秋刊) 予価:5,000円 [本邦初の完訳]
第IV巻(第2回配本)蒸気で動く家 荒原邦博・三枝大修訳(17年5月刊) 予価:5,500円 [本邦初の完訳]
第V巻(第3回配本)カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密 新島進訳(17年11月刊) 予価4200円 [新訳、本邦初訳]

 黒吉がとくに期待しているのは第V巻の「ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密」。1970年代にたまたまTVで放送された映画版を観て、透明人間はライバル?のH・G・ウェルズの専売かと思いきやヴェルヌも書いてたのか!と仰天。この作家には珍しくロマンス色も濃いので、原作は如何にと興味深々。

 なお「驚異の旅( Les Voyages Extraordinaires )」とはヴェルヌの冒険小説の全体を指す言葉で、「新集世界の文学第20巻ジュール・ヴェルヌ」(1972年 中央公論社)の巻末に付された目録を見ると65作品がリストアップされています。

 参考までにわが国で刊行された他の作品集を紹介しておきます(子ども向けを除く)。

(1)ヴェルヌ全集 全24巻 集英社 1967~69年

第1巻 八十日間世界一周
第2巻 海底二万里
第3巻 征服者ロビュール
※ 空のネモ船長とでも言うべきロビュールが、元祖大型ヘリで大空を征服。
第4巻 皇帝の密使(原題「ミハイル・ストロゴフ」)
※ ロシア皇帝の密命を受けてシベリア横断6000キロ。
第5巻 二年間のバカンス
第6巻 カルパチアの城
※ トランシルヴァニアの古城にまつわる怪異とロマンス(でもホラーじゃない)。
第7巻 気球に乗って五週間
※ ナイルの源流を気球で探検。「驚異の旅」第1作(1863年)
第8巻 地底の冒険
第9巻 月世界旅行(原題「地球から月へ」)
※ 有人の砲弾を月へ飛ばす超巨大砲の建造から発射まで。
第10巻 悪魔の発明(原題「国旗に向かって」)
※ バミューダの孤島に立てこもる海賊王が手に入れたのは、超強力な破壊兵器。
第11巻 シナ人の苦悶
※ 清朝の中国。全財産を失い死を決意した青年が、運命の皮肉から大冒険へ。
第12巻 インド王妃の遺産(原題「ベガンの五億フラン」)
※ 莫大な遺産を相続した二人の科学者。一人は科学都市を、もう一人は究極の破壊兵器を。
第13巻 アドリア海の復讐I(原題「マチアス・サンドルフ」)
第14巻 アドリア海の復讐II
※ ハンガリー独立のために立ち上がった若き伯爵は、奸計にはまり死の獄に。もうひとりの巌窟王
第15巻 月世界探検(原題「月をまわって」)
※ 砲弾の発射から地球帰還まで。
第16巻 動く海上都市(原題「スクリュー島」)
※ 元祖メガ・フロートが世界をめぐる。襲い来るは海賊、そして自然の猛威。
第17巻 グラント船長の子供たちI
第18巻 グラント船長の子供たちII
※ 行方不明の大探検家を探すために、その子どもたちと若き英国貴族が冒険の旅に。
第19巻 黒いダイヤモンド(原題「黒い宝庫」)
※ スコットランドの廃坑で見つけたのは大炭層と絶世の美女。しかしその奥には恐ろしい秘密が。
第20巻 ジャンガダ
※ 汚名をすすぎ、愛娘を守るため、父は大筏(ジャンガダ)でアマゾン川4000キロを下る。
第21巻 神秘の島I
第22巻 神秘の島II
※ 南軍に捕らわれた4人の北軍兵士は気球で脱出し、太平洋の孤島へ。そこで起こる不思議な出来事の数々。「海底二万里」と「グラント船長の子供たち」の完結編。
第23巻 砂漠の秘密都市(原題「バルザック調査団の冒険」)
※ 仏領ギアナの政府調査団が拉致されて、科学の粋を集めた要塞都市へ。「驚異の旅」の掉尾(1919年)

第24巻 ドクター・オクス 短篇集
※ 精神を狂わせるガスの騒動を描く表題作のほか「ザカリウス師」「ラトン一家の冒険」「永遠のアダム」を収録。

 収録作の多くが本邦初訳。これだけまとまった作品集は後にも先にも出ていません。新書判で出たのも貧乏学生には有り難く、いまだに集英社には感謝しています。


(2)海と空の大ロマン 全9巻 パシフィカ 1979年

第1巻 気球旅行の五週間
第2巻 洋上都市
※ 巨大汽船の航海を描く表題作のほか短編「空中の悲劇」「マルティン・パス」「老時計師ザカリウス」を収録。
第3巻 ハテラス船長の冒険 上
第4巻 ハテラス船長の冒険 下
※ 船長不在のまま謎の航海を続ける帆船はついに北極へ。
第5巻 氷のスフィンクス 上
第6巻 氷のスフィンクス 下
※ アーサー・ゴードン・ピムの足跡をたどる探検家が出会った南極の怪異の真相は…。
第7巻 北海の越冬/緑の光線
※ 「緑の光線」はヴェルヌには珍しい静かな恋物語
第8巻 皇帝の密使ミハイル・ストロゴフ
第9巻 永遠のアダム/エーゲ海燃ゆ
※ 前者は文明の終焉を描く短編。後者はギリシャ独立戦争を背景に描かれる愛憎の人間模様。

 B6判ソフトカバー。巻数の表記はないので、黒吉が月報の番号から判断しました。


(3)ジュール・ヴェルヌ・コレクション 集英社文庫 1993~94年

1 海底二万里
2 チャンセラー号の筏
※ 大西洋航路の帆船が火災で沈没。乗員と乗客の壮絶なサバイバルが始まる。
3 アドリア海の復讐 上
4 アドリア海の復讐 下
5 征服者ロビュール
6 二年間のバカンス
7 カルパチアの城
8 気球に乗って五週間
9 インド王妃の遺産
10 氷のスフィンクス
11 世界の支配者
※ 陸海空を高速で移動する謎のスーパーヴィークル。その目的は?「征服者ロビュール」続編。
12 ミステリアス・アイランド 上
13 ミステリアス・アイランド 下
※ 1996年に追加刊行。

 新書判ヴェルヌ全集からのセレクションに本邦初訳の2冊(2と11)及び10を新たに収録。
 後年に一部(「海底二万里」等)が改訂新版になった模様。電子書籍版もあり。

 

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          新書判「ヴェルヌ全集」   「海と空の大ロマン」

 

よみがえれ!ワンダーウーマン …2016年4月11日

 並み居るDCコミックスのヒーロー中で、スーパーマンバットマンとともにビッグ3の一人と目されているワンダーウーマンですが、本家アメ・コミ以外では何故か影が薄い。1970年代に初めてTVシリーズになったときは、元ミス・ワールド米国代表のリンダ・カーターが主演したこともあって、それなりに人気があったのですが、以後実写映像化はされていません。

 2011年になってやっと新たなTVシリーズが立ち上がることになったのですが、結局パイロット版ができただけで、しかもお蔵入りに。どういう事情があったのかわかりませんが、スティールを見るとコスチュームの露出度が低い!下半身はお決まりのショートパンツでなく、スパッツみたいなもので脚が全部隠れています。これが敗因?

 つくづく不運なWWですが、ここへきて突然復活しました。公開中の映画「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」です。演じるガル・ガドットの不敵な面構えもよいのですが、何より登場シーンがかっこいい。窮地に陥ったバットマン。そこへラスボスの破壊光線が炸裂!爆煙が薄れると、そこに光線をブロックして立ちはだかるWWの雄姿が!いやあ拍手、拍手!

 今回の映画については言いたいことがいっぱいあるのですが、これだけでかなりのところ許せてしまいました。周囲の迷惑もなんのその、街をばりばり破壊しながらの戦闘シーンも迫力満点。来年にはソロの映画もできるそうですが、この分ならと黒吉は期待しています。


(注)
・本家アメ・コミでWWは1941年に初お目見え。DCでも古参の部類です。出自は変わっていて、オリンポス十二神がいまだに幅を利かせている南の島。粘土像に神様が命を吹き込んで生まれたという、まるで聖書のアダムのよう。不時着した米国の女性パイロット(島の住人を守って戦死)に敬意を表して、星条旗をデザインしたコスチュームをまとい、色々あってアメリカへ移住。

 能力はスーパーマンなみの筋力と武芸百般。飛行能力はあったりなかったり(シリーズによって違う)。透明な飛行機(ステルスじゃなくて、透明素材でできてる)で移動するのが古いパターン。武器は主に特製の投げ縄!ときどきソードや槍もつかうみたい。

・最初のTVシリーズ(1975~79)は3シーズン57話。第1シーズンは戦前の話で、第2シーズン以降は現代もの。役者はいいんだけど、コスチュームがビミョー。ショートパンツがちょうちんブルマーみたいな感じで、リンダさんのお腹がぽっこりして見えるという、これは痛恨事ですね。

・「以後実写映像化はされていません」…アニメでは「ジャスティス・リーグ」(2001~06)などに登場しています。

・新TVシリーズ(パイロット版1話のみ)はワーナー制作。主演はエイドリアンヌ・パリッキ 。

・余計なことですが「バットマンVSスーパーマン」版のWWはコスチュームの柄が星条旗になってません。

(追記)映画「ワンダーウーマン」Wonder Woman は米では本年6月、わが国では8月25日公開予定。なんで100年も前の話にするかなあ…


 わが国で出版された唯一のWW本がこれ。徳間書店1981年5月刊

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みくみく菌にご注意を! …2016年4月7日

 プロフィールにも書いたように、黒吉は日に何曲か聴かないと調子が出ないほどの初音ミク中毒です。朝起きると、たいてい何かのボカロ曲が脳内でエンドレス再生されています。そんな有様なので、症状はかなり重篤!もはや不治の病かもしれません(合掌)。

 ずっと前からそうだったわけではありません。ミクについてはかなり早い段階で存在を知り、Webで初期のMV(「はちゅねミク」の起源になったネギ振り動画など)を観て、とても合成音声とは思えない!と感心していました。が、一方では「マニアのおもちゃ」程度の認識しかなかったのも事実で、本格的な楽曲は無理だろうと、たかをくくっていました。ライヴ・コンサートの話を聞いたときも、シャレに違いないと笑っていたくらいです。

 見方が一変したのは、たまたま「ミクパ in Kansai」のTV中継を観たときです。曲もすごいが、歌も見事。何より、ミクの存在感が半端じゃない!観客がだれもいないステージに熱狂して、サイリウムを振り回しているというシュールな光景なのに、ちっとも不自然に見えない!それどころか、こちらまですっかり魅了されて、終わってからしばらくの間、ぼーっとして何も手につかないという体たらく。

 いやはや、還暦を過ぎてからこんな体験をしようとは!長生きはするもんじゃのうと、クリプトン・フューチャー社やボカロPの皆様に感謝することしきり。

 あらためてYouTubeを検索すると、あるわあるわボカロMVが鬼のように集積されているじゃありませんか。MMDすごい!Project Diva素晴らしい!と狂喜乱舞。どうやらニコニコ動画震源地らしいと、そちらもチェックしに行くと、たちまちハマって速攻でプレミア会員に。以来、坂をころげるようにミク中街道一直線。MVをせっせとダウンロードしては、昼休みなどにPCやタブレットで鑑賞する毎日です。

 何がそんなにツボにはまったのか、自分にもよくわからないのですが、ただ「歌」が本来持っている力を再認識したのは確かです。長い間、歌というものは感情をこめて歌うから心に響くものだと思い込んでいました。ところがボーカロイドが歌うと、歌そのものが、きわめて素直に心の奥まですとんと落ちてくるような気がします。ですから、フラットで感情のこもらない機械の歌声なのに、感動して泣いたりするのは決して不思議なことではありません。人というフィルターを通さない分、歌の本質がとても純粋な形で届くのではないかと黒吉は考えています。それが人が歌う歌とはまた違った魅力に思えるのです。

 ボーカロイドの技術は日々進歩しています。表現力も豊かになって、難しいのは会話とシャウトそれに演歌の小節くらい?でも、それらが解決されるのは時間の問題で、ディープ・ラーニングなどAIの進化により、ゆくゆくはリアルタイムの会話も夢ではないでしょう。また、3D映像の投射技術も現状にとどまっていないはず。

 そうなるとボーカロイド(またはその後継)が、本気で生身のアイドルの地位をおびやかす存在になることは十分予想されます。何しろ歳はとらないし、スキャンダルを起こすこともない。ファンのイメージを裏切ることはまず考えられません。もともとアイドルは実体があるとはいえ、その本質は虚像にすぎないので、バーチャルな存在に置き換わってもまったく問題ないと黒吉は考えています。ああっ、石を投げないで!

 とにかく、ボーカロイドは未来に開かれた、ますます魅力的なバーチャル・アイドルです。中でもミクはエバーグリーン、永遠の16歳。さあ、昨年はついに武道館ライヴ、今年はなんと北米10都市ライヴ・ツアーだぜ!カナダ人もメリケン野郎もメキシカンもまとめてきゅんきゅんいわしたれ!ミクさんまじ天使ー!


(注)

初音ミクなどのボーカロイドは、人の声を素片にしてプログラムできるようにしたもの。つまり楽譜にあわせて歌詞を入力すると歌ってくれるパソコン用のソフトウェアです。核になる音声合成エンジンはヤマハ製ですが、それに可愛い声のライブラリと使いやすいユーザーインターフェースをパッケージしたのがクリプトン・フューチャー・メディアという会社。
 おかげで、歌をつくるだれもが専属の歌手を持てるようになりました。まさにデスクトップ・ミュージックの革命といえましょう。クリプトン社(の社長)はその功績が認められて、なんと叙勲されています(2013年、藍綬褒章)。

はちゅねミク初音ミクから派生した2等身のゆるキャラ。後に公式認定。ネギも準公式のアイテムに。

・ミクパ in Kansai…正しくは「初音ミクライブパーティ in Kansai 2013」。2013年3月9日和歌山で開催。

・ボカロPはミクなどのボーカロイドを使って歌をつくる人。Pはプロデューサーの略だとか。

・MMDは「Miku Miku Dance」というパソコン用ソフトウェアの略称。文字どおりミクを踊らせるための3Dアニメ作成用ソフトです。よくできたMMDのPVをみると、アマチュアでもここまでできるのか!と驚きを禁じえません。開発者は樋口優さん。こんな優秀なソフトを無料で配布されています。感謝、感謝!
 ミク以外にも多くのキャラクターがMMDモデル化されているし、ミク自体にも多種多様なモデルがあります。黒吉のお気に入りはTda(ティーダ)式ミク。

・Project Diva(プロジェクト・ディーヴァ)はセガアーケードゲームプレイステーションで展開している、ミクとその一党をフィーチャーしたリズム・シューティング・ゲーム。多数の実況動画やPVがニコ動などにアップロードされています。アーケード版のPVをみると非常にハイ・ポリゴンのモデルが美しく踊っていて、ただもううっとり。

・バーチャルな存在に置き換わっても問題ないとはいうものの、握手会ができないのは問題かも知れませんな。

・武道館ライヴ…2015年9月4~5日の「マジカルミライ2015」。

・北米ライヴ・ツアー…「Hatsune Miku Expo 2016 North America」。2016年4月から6月にかけて、10都市15公演という大規模ツアー。

(追記)演歌の小節については、最近出たノウハウ本「初音ミクV4X徹底攻略ガイドブック」(リットーミュージック)に回し方が書いてありました。お見それいたしました!

 

スーパーマンが飛ぶ! …2016年4月6日

 「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」絶賛公開中!ということで、今回のテーマはスーパーマン。彼はもちろん架空の存在だけれど、アメリカを代表するいわゆる文化アイコンの一つ。今や普通名詞なので、わが国でも知らない人はいない(はず)。でも、世代によってそのイメージはかなり差があるのではないかと思います。

 大ざっぱに分けて、(1)昭和30年代に実写版のTVシリーズを観ていた世代。(2)1970~80年代の映画(クリストファー・リーヴ主演)を観た世代。(3)今世紀のTVシリーズ「ヤング・スーパーマン」や映画「マン・オブ・スティール」などを観た世代。といったところでしょうか。

 昔のTVシリーズのジョージ・リーブスはちょっと野暮ったいけど、フレンドリーなキャラ。クリストファー・リーヴは甘いマスクでロマンティックな場面にもよく似合いました。「ヤング」のトム・ウェリングは言っちゃ悪いがどこにでもいるような悩める兄ちゃん(それが狙いでしょう)。新世代映画のヘンリー・カヴィルはパワフルだけど、陰(かげ)があって少し怖いような感じのヒーローになっています(今回の映画にはうってつけ!)。

 黒吉はもちろん最初の世代なので、出会いは昔の実写版シリーズ。ちょうどTVが普及し始めた時期でした。当時はすごい人気で、吹き替えを演じた若き日の大平透さんまでスター扱い。ひょっとして声優のアイドル化はこれが起源?

 今見ると、ジョージ・リーブスは筋肉質というよりドテっとした感じだし、飛行シーン以外ほとんど特撮なしの、絵に描いたような低予算だしと、なかなかつらいものが…。でも「空を見ろ!」の有名なナレーションで始まるオープニングは、今も脳裏に鮮やかによみがえります。

 TVシリーズの人気を反映して、原作マンガ(いわゆるアメ・コミ)の翻訳も始まりました。当時、少年雑誌で勢いのあった少年画報社が版権を取得して、雑誌形式で昭和34年から36年にかけて14冊を刊行。親に買ってもらえなかった黒吉少年は親切な友だちに借りてむさぼり読んだのでした。

 その割におぼえていないのは情けないけど、バットマンやロビンに出会ったのはこの時です。シリコン(だったと思う)の盾で殺人光線を防ぎながら、クリプトナイト攻撃に苦しむスーパーマンを援護して戦っていたのを記憶しています(バットマンがわが国のメディアに登場したのはこれが最初?)。

 次の出会いは、昭和38年に放送された短編アニメシリーズの「スーパーマン」。「天空の城ラピュタ」のロボット兵の原型になった飛行ロボットが出てくるので(一部で)有名です。実写版よりスケールがでかいし、何よりスーパー能力が存分に描かれています。

 作られたのは戦前なので古いといえば古くさいのですが、切断されたケーブルの代わりに自分の体で高圧電流を通すとか、ヒロインに落ちかかる溶けた鉄の滝をケープで受け流すとか、おお、かっこいい!というシーンが満載です。短いけど勇壮なテーマ音楽もナイス。

 と、こんなふうにできた黒吉のスーパーマン像は、よく言えばオーソドックス、でも古くささはまぬがれないところ。

 きょう日の映画のスーパーマンは、アメ・コミ由来のケバい配色をやめてダークな色の衣装になっているし、何より赤パンツをはいてない!「ヤング・スーパーマン」にいたっては、ケープどころか普段着で飛びまわっています。

 それは単なる外観の変化だけでなく、内面も変わってきたことを表しています。もはや往年の「アメリカの正義」を信じて能天気に活躍していたヒーローの姿はありません。ひとつひとつ何かを失っていくスーパーマンがアメリカという国に重なって見えるのは黒吉だけ?


(注)
・最初のTVシリーズは「Adventures of Superman」。本国では1952年から58年にかけて、30分もの6シーズン104本を放映。初期の2シーズンのみモノクロ。黒吉は後年CSで見て「色つきだったのか!」と仰天。
・「空を見ろ!」のフルバージョンは

 弾丸(たま)よりも速く!力は機関車よりも強く!高いビルディングもひとっ跳び!
 (群衆の声)空を見ろ!鳥だ!ジェット機だわ!あっスーパーマン
 そうです。遠い星から来た奇跡の男。人間をはるかにしのぐ力を持ち、川の流れを変え、鋼鉄をひねるくらいは朝飯前。
 彼はクラーク・ケントと名乗って、メトロポリスの新聞社デイリー・プラネットの記者として正体を隠し、正義と真実を守るため日夜戦いつづけているのです。

 原文は
 Faster than a speeding bullet! More powerful than a locomotive! Able to leap
tall buildings in a single bound!
Look! Up in the sky! It's a bird! It's a plane! It's Superman!
Yes, it's Superman. Strange visitor from another planet who came to Earth
with powers and abilities far beyond those of mortal men.
 Superman, who can change the course of mighty rivers, bend steel in his bare
hands, and who - disguised as Clark Kent, mild-mannered reporter for a great
Metropolitan newspaper - fights a never-ending battle for Truth, Justice and
the American way!

 日本語版では「正義と真実」の次の「the American way」が抜けていますね。そうです彼はウルトラマンのように人類のためでなく、アメリカ市民としてお国のために戦っていたのでした。

 よけいなトリビアを申しますと「高いビルディングもひとっ跳び」とは超人的なジャンプ力をいいます。雑誌連載初期(1930~40年代)の設定では、飛行能力はなく大ジャンプで移動していたのです。ですから前述の短編アニメシリーズにも、飛行(跳躍)中に障害物に阻まれて落下するシーンがあります。
 最初のTVシリーズは戦前のラジオ・ドラマ版のオープニング・ナレーションをそのまま使ったので、飛行能力があるのに、このような表現になっています。

※日本語訳は黒吉の記憶で書いてあります。違っていたらご教示いただければ幸いです。

少年画報社の雑誌版は単なる翻訳でなく、絵もわが国のマンガ家がそれらしく書き直していたと知って大びっくり。そのままの絵で載せると、米国仕様で本が左開きになってしまい、右開きに慣れたわが国の子どもたちになじまないと思ったのでしょう。教えてくださったのは「ツルゴアXXX」というブログ。ありがとうございました。

・短編アニメ・シリーズの作者は「ポパイ」で有名なマックス・フライシャー。1941年から43年にかけて17本が公開されました(わが国では、前述のとおり戦後TVで初お目見え)。とにかく丁寧なつくりで、レトロな雰囲気もかえって新鮮。何しろ太平洋戦争当時の制作なので、日本軍と戦うエピソードもあったりして、色々な意味で一見の価値あり。(追記)最近になってもう8本が確認されているようです。

・「ラピュタ」のロボット兵もそうだけど、「ルパン三世」第2シリーズの最終エピソード「さらば愛しきルパンよ」(1980)のロボットの方が原型に近いかも。

 

ビバ!スターウォーズ …2016年4月1日

 記念すべき第1回は今さらスターウォーズ。「フォースの覚醒」の世評は毀誉褒貶あい半ばの印象で、古参のファンからは厳しい意見が多いようです。心配したほどひどくはないなというのが黒吉の正直な感想。あのJ・Jが撮るというので、まったく期待していなかったのが吉と出た?

 CGオンリーでなく、でかいセットやクリーチャーのマペットなどを使って、感触を大切にする画面作りは好感度高し。おっさん見直したぜ!と言いたいところだけど、新キャラクターがそろいもそろって魅力なしというのはいかがなものか。とくにヴェイダー・ジュニアがただのチンピラにしか見えんのが痛い。ま、次回作で暗黒面修行の成果を見せてもらいましょう。

 映画の出来映えはさておき、今回の問題点はもっと本質的なところにあるのですよ。何かというと、今まで発表されたすべてのスピンオフ作品を、正史(カノン)とは別の「レジェンド」に位置づけるとディズニーが発表したこと。早い話が、過去30年以上にわたり、主に小説で蓄積されてきた膨大な物語世界を黒歴史にされてしまったということであります。

 こらこら何ばしよっと!と黒吉は怒り心頭、怒髪衝天、茫然自失、右往左往、東奔西走、東方腐敗と大混乱。ディズニーは「観客に驚きをあたえる、まったく新しい物語をつくるために、一切の制限をなくした」と説明していますが、とんだ心得違いでしょう。結果は、あのてんこ盛りの既視感で一目瞭然。

 脚本家に限らず、クリエイターは制約があればこそ、何とか新機軸を盛り込もうと努力するもの。スターウォーズ世界の時空間は広い。いくらでもフロンティアは広がっています。そこを開拓するための手掛かりに満ちた、巨大なデータベースがすでにできているのに、利用しようという発想はなかったのか。黒吉はかなしい。

 と、初っ端から景気の悪い話になってしまいましたが、これからもよろしく。

 

(注)
スターウォーズのスピンオフ小説は市販本だけでも多いのに、ネットで流布しているファン・フィクションもあって、もはや全貌は見当もつきません。そういや我が魔窟にも翻訳書が結構あったなと確認してみると、なんと150冊!ジュヴナイル(年少向け)やヤングアダルト向けは買ってないのに、この有様です。

 おすすめは「スローン三部作」。スターウォーズ世界きっての名将スローン大提督が伝説のカタナ艦隊を率いて、新共和国を新たな危機に陥れます。作者はヒューゴー賞作家のティモシー・ザーン。新しい映画シリーズには大提督も皇帝の密使マラ・ジェイドも登場しないんだろうなぁ(ため息)。

第1部「帝国の後継者」Heir to the Empire(1991) 竹書房文庫1992年刊。

第2部「暗黒の艦隊」Dark Force Rising(1992) 竹書房文庫1993年刊。

第3部「最後の指令」The Last Command(1993) 竹書房文庫1994年刊。

※邦訳はいずれも上下巻。

 (追記その1)

 「通りすがり」さんからコメントをいただきました。
 『はじめまして!スローン大提督は、ディズニー公認の正史アニメ「反乱者たち」シーズン3に登場することが最近発表されたほか、ティモシイ・ザーン自身の手によるディズニー公認の正史小説「スローン」も発売予定とのことです。』朗報です!ありがとうございました!

 (追記その2)

 新作映画「スターウォーズ ローグ・ワン」が素晴らしい。ジェダイもフォースも出番がないけど、ちゃんとスターウォーズになっているじゃないか!独立愚連隊の主要メンバーそれぞれのキャラが立っていて、二度と出番がないのがもったいないくらい。往年のキャラクターも効果的にはめ込まれていて、最後の台詞で不覚にも涙してしまいました。

 

 

前口上(はじめまして)…2016年4月1日

 長年の勤めを終えて、晴れて無宿人もとい無職人になってみれば、この不景気の世に吹けば飛ぶよな年金暮らし。あこがれの悠々自適から何万光年。かといって特段することもなし。このままではウォーキングデッドならぬ歩く粗大ごみと化すは必定。せめて何か元手のかからぬ日課をつくらねばと思い立ったのがこのブログ。

 思い立ったはよいが、もとより日常のよしなし事を面白く読ませる筆力はなし。さりとて生きのよいニュースを提供するだけの情報(ネタ)収集力もおぼつかない。何とかならんものかと後ろをみれば、若い頃から集めてきた書物(濃い方面限定)が山をなして魔窟状態。

 こいつで行くしかないか…しかし私亡きあとこの書庫はどうなるのか…などと考えるともなく思いをめぐらせていると、ふと連想したのが山本弘さんの小説「幽霊なんて怖くない」に出てきた酒屋のじーさんの書庫。かえりみる者もなく、ほこりにまみれていた大量のSF本に狂喜したJKのヒロインが、そこから掘り出した1冊の本で善戦(ビブリオバトルですが)するというお話。

 これはフィクションだけど、現実に古いSF本を読んだり集めたりするのが大好きという若い人がいるのでしょうか?いてほしい!いや、いると信じて、その人たちに少しでも役立つような情報も提供できればよいなと思いつつ励むことにします。黒吉 Sally Go!

 

(注)
・「幽霊なんて怖くない」は「BIS(ビーアイエス)ビブリオバトル部」シリーズの2作目。東京創元社2015年刊。あ、ビブリオバトルというのは、参加者の前で5分以内に1冊の本についてプレゼンし、読みたくなった本に投票して勝敗を決する知的競技です。

・Sally Go …行け!魔法使いサリー(古っ)じゃなくて、sally には「出撃する」という意味もあります。「ウルトラマンメビウス」でサコミズ隊長(今は亡き田中実さん。合掌)が「Guys Sally Go!」とやってました。

引っ越しのごあいさつ

 はじめまして、黒吉と申すヲタ老人です。もともとボケ防止の目的で始めたブログですが、身辺に色々と面倒事が発生したのを口実に更新をさぼっていたところ、使っていたブログ・サービスが廃止されることになってしまいました。
 つまり、留守にしていた賃貸マンションに帰ってみれば怖い蟹、取り壊すので出てってくれといわれたようなもんですな。うーむ困った、引っ越し先を探さなければ!というわけでたどり着いたのが、はてなブログ
 しかし何というか、ローカルで地味~にやっていた田舎もんが、えらくにぎやかな大都会に出てきたような感じで、とまどっていると言うのが正直なところ。
 PVを稼ごうなどという大それた望みは、もとよりないので笑って見守ってやってください。
 幸か不幸か以前の記事は多くないので、にぎやかしのために取りあえず移しておきます。